凝り性の外科医(4)

毎日が山登り

 今日は仕事が早めに片付いたので、日比野にあるマッサージへ。いつもは新瑞橋にあるマッサージに行っているのですが、系列店が会社の近くの日比野にあることが発覚し、そちらへ。日曜に新瑞にいる人(シモちゃん)が平日はそっちにいるようで、楽しくおしゃべりを。
 とりあえず私が働きすぎだということを大いにアピールしておきました(笑)。「こんなところがこるのはおかしい」「40代・50代の筋肉の硬さですね」「山登りしてきた人が来るとこんな感じです」とか、笑いながら散々言われましたが(笑)。「ま、原因ははっきりしてますもんね。働きすぎですから(笑)」とも(笑)。太鼓判を押されてしまいました。4:30起きの話とか、始発の話とか、12時間くらい立ちっぱなしの話とか、5時間しか寝れない話とか、働きすぎて30kg痩せた話とか、苦労話に花を咲かせてきました。そんでもってブログまで立ち上げてしまったんですから、手一杯(笑)。
 ちなみに、私、肩がこったことがないんです。肩こりに悩まされたことがない。辛い肩こりってのを味わったことないんですよね。肩をもまれている時にその話をして「こってます?」と聞いたら、「こってますよ」って(笑)。「こってないわけがないじゃないですか」って(笑)。他が重度だから、こってても気付かないそうです。はあ、ボロボロですね、こりゃ。

外科医・難波 1-④

数分後、難波は立ち尽くしていた。クランケは難波の想像以上に病魔に侵されていた。
「難波先生、どうします? このままではクランケの体がもちません」
 心配の表情を浮かべて多重が話しかけても、難波は何も言うことが出来なかった。頭の中は、どうすればよいか、それだけでいっぱいだった。いくら考えをめぐらせても、何一ついい答えは浮かんではくれなかった。と、同時に、自分の腕のなさに情けなくなった。頭の中はどうすればよいかということしか考える余裕がないはずなのに、不思議と後者がどんどん大きくなり、二つの思いが混ざり合って、難波の頭の中をグルグルと回った。


 次の瞬間、その混沌とした思いに一筋の光がさした。オペ室の自動ドアが開き、山岡が飛び込んでくる。
 そうだ、彼女がいた、と難波は思わず山岡の顔を見つめた。その顔を見ただけでは、彼女が持ってきた知らせが、いい知らせなのか、悪い知らせなのか、難波には判断できなかった。いや、山岡の表情はそのどちらも併せ持っていた。
「どうだった、山岡ナース」
「はい、脇谷先生とは連絡がとれました。ヒントっ」
「本当か。それはよかった」
 難波はほっとした。隣の多重も安堵の表情を浮かべている。しかし、山岡だけは違った。
「すぐに来てくれるんだろう?」
「それが、脇谷先生、今、車を修理に出しているらしくて。こんな時間では電車もありませんし」
「で?」
「こっちに向かっていることは向かっているんですが、時間がかかりそうなんです」
「でも、タクシーなら、すぐにつかまればそんなにかからないはずじゃないの」
 その多重の言葉に、山岡はハッとした。何で気付かなかったのだろう、という顔だった。
「あ、タクシー! タクシーがありましたね。でもどうしよう、脇谷先生、もう出ちゃってると思うし、先生、今、携帯も修理に出してるみたいで・・・・」
「ちょっと待ってくれ。部長はいったい何で」
「そのぉ・・・・自転車で」
 その場に、深いため息が幾つも重なっては沈んだ。


 山岡が何か思い付いたように、つと顔を上げた。
「そういえば・・・婦長、アメリカから帰国したばかりのドクター・コダマ、まだ残っていらっしゃるんじゃないですか?」
「どうかしら・・・いるかしら。彼、確か今夜は夜勤じゃないはずよ」
「ちょっと待って下さい。ドクター・コダマ、今夜は見たいテレビの深夜番組があるとかで」
「じゃあ、なおさら期待できな・・・」
 山岡は多重の言葉を最後まで聞かずに、続けた。
「そうじゃなくって、アパートのテレビが修理中で見れないから、今夜は病院で見るって」
「じゃあ、この病院のどこかに!」
 ドクター・コダマのことを何一つ知らない難波は、二人の話についていけなかったが、テレビというキーワードを耳にして、あることを思い出した。
「そういえば、ここに来る途中、テレビの音が漏れてきてた部屋があったな」
 山岡は目を輝かせて叫んだ。
「ヒントっ! いや、ビンゴっ!」


 廊下を急ぎながら、難波は山岡にコダマについて話を聞いていた。
「で、研修を終えて、帰国したんです」
「へぇ、アメリカのどこで研修を?」
「ラですってよ」
「え? どこですか?」
「だから、ラ」
 何のことを言っているのか、難波にはさっぱり理解できなかった。
「何? ラ? ラって何なんですか」
「何おっしゃってるんですか。難波先生、ラもご存じないんですか? これだから地方出身の方は困りますわ、ヒントっ!」
 その時、ある想像が難波の頭に浮かんだ。馬鹿らしい想像ではあったが、この人ならありえない話でもない。そう思って、難波は山岡に意見をぶつけてみた。
「あの、ラってもしかして『L・A』でラ?」
「もちろん。それ以外、どのラがあるっていうんですか」
「それ、そのままエルエーって読むんですよ。ロサンゼルスの略で」
「またまたぁ、騙そうったってそうはいきませんよ! ロサンゼルスの略はロスじゃないですか。難波先生ったら」
 そう笑いながら、山岡が難波の肩を大きく突き飛ばした。そうする間に、二人は例の部屋の前に辿り着いていた。


(つづく)