イタリアン外科医⑥

外科医・難波 Surgeon Dr.Nanba

溶けた氷がおすすめ

 カバンのポケットをあさっていたら、ガムシロップが出てきました。なんでもかんでも仕舞いこむというのはいけませんね。いつのかなぁと考えたのですが、おそらく地獄のイタリーに参加したときのものだと推測。捨ててしまえ。

難波、衝撃のラストへ

 難波。本日掲載分で、とりあえず第1話完です。そんなことをやっている暇はないはずなのに、思いついたことをいろいろ入れたくて加筆してしまい、大変です(笑)。すぐに第2話の掲載になるとおもいますが、感想をおまちしておりますね〜。


ひとまず、「外科医・難波」の歴史を紹介。
①ルーズリーフ時代
 高校2年の青春時代、授業中に書いていた難波の初稿です。難波→外科医という奇想天外な配役と、病院モノという難しい設定の中、実際の出来事を織り交ぜながらオリジナルストーリーを描くという手法が大ヒット。ルーズリーフ一枚に一話分をピッタリおさめるという偉業に、競売係さんが感心していた覚えがあります。


ワープロ時代
97年11月、ルーズリーフをもとに、ワープロで書き上げた第2形態。これで字数を気にしなくて良くなったので、いろいろと話が膨らみました。第1部として全6話を発表。
 第1話 運命の出逢い
 第2話 波乱の予感
 第3話 女の闘い
 第4話 自分勝手のバラード
 第5話 さらばアメリ
 第6話 死神の呼び声(第1部 完)


③文庫時代
第1部の続編として7話・8話が書き下ろされ、完結篇として98年2月に津島サルーン研究会から文庫が発行されました。(右上写真参照) 第7話 還ってきた男
 第8話 幸福の足音


④改訂版時代
 数年の沈黙を破り、2002年夏、外科医・難波が再始動。既存のストーリーをもとに、大幅な加筆・修正を加えた改訂版。1話分の容量はほぼ倍に。新キャラ、新設定、そして新たなる秘密…。大小様々な伏線を張り、コメディー・ヒューマン・ミステリーとふんだんに詰めて詰めて詰め込んだ究極の完結篇。メールにて配信という異例の形態での発表でしたので、世にあまり出回っていない幻の作品。ただ、膨大な力を消費するため、現在のところ第2話が終了した段階で休止中。このまま動きがないと思われましたが…。


⑤ブログ時代
 2005年夏、待ちに待った難波が帰ってました。誕生から早8年。流行のブログに乗っかって、難波が颯爽と復活です。当初は手始めに改訂版の分割掲載の予定でしたが、やっているうちにいろいろなアイディアが浮かび、細かい修正や、エピソードの挿入など、第1話だけでもかなり加筆いたしました。とりあえず、2話、そして手付かずの3話以降も執筆する予定ですので、気長にお待ち下さい。


 では、第1話のクライマックス、どうぞ。

「外科医・難波」1-⑥


 難波が振り返ると、中年の婦人が息せき切らして立っていた。クランケのご夫人だろうか。まだオペの結果を知らないわけだから当然だが、難波の目からは、不安でいっぱいの表情に見えた。難波も二人に歩み寄る。
「どうも、わたくし外科医・難波といいます。今回はご主人が急なことで・・・・」
「あ、先生ですか。いつもお世話になっております。主人・・・・といいますと・・・・うちの主人とお知り合いですか?」
「はい? あの、お知り合いというか何というか、一応、影ながらではありますが、執刀させていただいたものですから」
「主人を? あら、話が見えませんわ」
そう言われて、難波も頭を抱えた。話が見えないのは自分の台詞である。
「あの、失礼ですが、久田さんのご家族の方でいらっしゃいますよね」
 すると、横から山岡が割り込んで言った。
「何、言ってるんですか。私の母ですよ、ヒントっ!」
「どうも、いつも娘がお世話になっております」
難波はますます混乱した。どうして山岡ナースの母親が今ここに? 状況が全くつかめないことを山岡に告げた難波に、思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「だって、先生がおっしゃったじゃないですか」
「何を」
「家族に連絡してすぐ来てもらうようにって」
「・・・・・・・・・・・・」
 難波は唖然として言葉も出なかった。とんでもないナースがいたものだ。
「でも、うちの母に何か用でも?」
「そういうことじゃないだろ!」


「おやおや、大きな声を出して。何かあったのかね」
 二人が声のしたほうに顔を向けると、脇谷が立っていた。必死に自転車を漕いできたのだろう、汗がひどい。
「部長」
「難波君、いろいろと大変だったようだな。そこで伊藤婦長に会ってな、話は聞かせてもらったよ」
「私、あの・・・」
「難波君、人間という生き物は、毎日毎日が勉強だよ。くじけて、倒れて、そして強くなっていくんだ」
「・・・頑張ります。男・難波、もっともっと強くなってみせます!」
「そうだ。引っこ抜かれて、戦って、食べられても、その度に強くなるんだ。頑張れ」
後半、ややおかしなフレーズがあったが、難波は特に気にせず、脇谷と熱い握手を交わした。
「部長、そのジャージ・・・」
「ああ、これか。寝る時はいつもこれでな。着替える時間がなかったもんだから。恥ずかしい姿を見られてしまったな、ハハハ」
「そんなことないですよ、お似合いですよ、その黄色」
 やや引きつった表情で、難波はこたえた。
「そうか? しかし君の白衣には敵わんよ。ベスト白衣ストだな。だが、ちゃんとボタンをかけんと台無しだぞ」
 そう言われて、難波は自分の白衣を見下ろした。確かにボタンが一つずつ掛け違えてある。しかしおかしいな、と難波は思った。夕方、部長に直してもらったはずだ。ということはだ、最初はちゃんと着れていたのに、あの時、部長がわざと・・・・。
 目の前の脇谷は、ニコニコと笑っていた。
「あの・・・・」
 背後から声をかけられ難波が振り返ると、山岡の母がさっきのままの不安な顔で口を開いた。
「私はもう帰ってもいいんでしょうか・・・・。テレビショッピング見てる途中で出て来たものですから」
「あ、ああ、どうぞどうぞ、お帰りになってください」
「いいです? 売り切れになっちゃうと困っちゃうんです。絶対欲しいの、木彫りのレオナルド熊
「ええ、ですから、どうぞ」
 そんな訳のわからない彫り物を買うくらいなら、この親子は頭の中を彫ってもらった方がいいと心底思った難波だった。


「あら、脇谷先生」
 三人の前を、難波の知らない女性が通りかかった。ふくよかで、童顔な感じだ。
「豊田君、今夜は残業かい?」
「ええ」
「紹介しよう。難波君、私の姪の豊田真由美君だ」
「豊田真由美です。あなたが難波先生ですね。お話は脇谷先生から伺ってます」
「どうも、はじめまして、難波です。豊田さんもこちらの先生で?」
「あ、いえ」
「彼女はこの病院の事務をしてくれているんだ」
 脇谷は、自分の恋人を紹介するように、嬉しそうに言った。
「そうなんですか。これからお世話になります」
「こちらこそ。それでは、私はまだ仕事が残っていますので、このへんで」


 これが難波と真由美の出逢いだった。
 出逢いが突然なほど、その出逢いはその後の人生に大きく関わるという。そして、この場合も例外ではなかった。大きな運命の歯車が、この時、回りはじめた。


〜第一話 はじまりの夜  完〜