大盤振る舞いの夜
ザ★萬カレー
神田川さん、桃ジュースに続いての贅沢三昧グルメは、一万円のカレー「萬カレー」です。ちょっと前に発見して、今日やっと販売開始なので、先ほど申し込みました。
1000セット限定なのでもうないかと思ったのですが、やはりそんなに争奪ではないのでしょうか(笑)。明らかにお金の使い道が間違っていますものね。でも、これくらいしか楽しみがないから、許して。
「外科医・難波」 2-③
デスクに戻ろうと、ロビーを歩いていた難波の肩に、誰かの手が乗った。
「な〜んばちゃん」
「あっ、先輩」
振り返ると、難波の大学時代の先輩である古田がいた。その薄い髪のせいか、生やしたヒゲがよく目立つ。
「どうしたんです? こんなところで会うなんて」
「あ、いや、ちょっとね。それより元気か?」
「はい、一応は元気にやってます」
「そうか、それはよかった」
「先輩もあんな小さな村医者じゃなくって、こういう大きなところで働いたらどうです」
「お前は相変わらずだな。俺は好きであの村でやってるんだ。やりがいのある仕事だと思ってるよ。こういう大きな病院でこき使われるのはまっぴらだ」
「でも、お一人じゃ、大変じゃないですか」
「余計なお世話だよ。じゃ、俺、急ぐから」
古田は急ぎ足で廊下を去って行った。遠目にその様子を見ていた山岡が難波に歩み寄る。
「難波先生、あの方とお知り合いなんですか?」
「あ、山岡ナース。ええ、大学時代の先輩でね」
「先生、あの方の病気、ご存知ないんですか?」
「病気? 病気って何のことだい。まさかうちの患者なのか」
「そうですよ」
「どこが悪いの」
「それが・・・・、ヒントっ」
「いや、ヒントはいいから答えを」
「そうじゃなっくて。ヒントっ」
「だから、ヒントはいいから。何の病気なんだ」
「口癖ですから、気にしないで下さいよ。実は、あの人・・・・ガンらしいんです」
「え? ガン」
「はい、食道ガン」
難波は一瞬よろめきそうになった。あんなに元気そうだった先輩がガン? まさか。難波には古田とガンを結びつけることは到底できなかった。
「信じられない…」
「信用して下さい。確か312の患者さんなんですけど、婦長が今朝言ってましたよ」
難波は、山岡のことだからきっと勘違いに違いないと思った。そうであって欲しいと願った。
そこへ外科病棟の看護婦主任・清水*1が通りかかった。山岡が彼女を呼び止める。
「あ、清水主任、ちょうどいいところに来てくれました。あの、312の患者さんの病気って…」
「ごめんね、今、急いでるのよ。後にしてもらえる」
「ちょっとだけですから」
「それより、山岡さん、209号室の掛け時計、ちゃんと外しておいてくれた?」
「あ、まだでした」
「もう! 209の岩内さん、今度、時計が落ちてきたら危ないんだからね。*2どうしてこうもあの人の頭に時計ばかり落ちるのかしら。もう三回よ、三回。よっぽど時計に恨みをかってるのね。それから、吉田先生に例の件、伝えてくれた?」
「例の件というのは」
「忘れたの? 階段の手すりを滑り降りるのはやめるように言っておいてって言ったはずよ」
「ああ、そっちもすっかり」
「ちゃんとしなさいよ。急流すべり*3だか何だか知らないけど、患者さんが真似したら大変なことになるわよ、まったく。わかったんなら、すぐ行動!」
「あ、はい。じゃ、難波先生、また」
山岡は急いで病室に向かった。
「もっと速く走って! 遅い、遅い、遅い、遅い、遅い!*4」
清水は手を叩きながら、山岡が見えなくなるまでそう言い続けた。
「あの、お言葉ですが、清水主任」
「何です? 難波先生」
「病院の廊下は走らないほうが・・・・」
「何言ってるんですか。それはそれ、これはこれでしょう!」
「はぁ・・・・・・・・」
(つづく)