喰いカバン

悪魔のカバン

悪魔のカバン

 地下鉄にて。混雑していた車内に、空席が向かい合わせにポツンとひとつずつ。誰も座る気配がなかったので、するりするりと人をかいくぐってその空席に陣取りました。
 すると、ちょうど向かいの空席がなぜ空席のままだったのか、理由がわかりました。
 ゴミ
 食べ終わったポテトチップスの袋と、飲み終わったコーヒーの紙パックが放置されております。誰ですか、こんなゴミを席に残して行く非常識な輩は。汚らしい。誰も座らないはずです。
 しばらくして、電車が停車したタイミングで若い女性がすっと立ち上がりました。ちょうど、ゴミ席の隣の隣の席に座っていた女性。当然、降りるものだと思って何も気にしていなかったのですが、この後、彼女が予想外の驚くべき行動に出たのです。
 なんと、素早い動きで手をグっと伸ばし、隣の隣の席のそのゴミをむんずと掴んで自分のカバンに押し込み、また素早く手を伸ばして残ったゴミを掴み、それをまたもカバンに。そして、再び着席し、何事もなかったかのように読書をはじめました。
 ナニ!?何が起きたの!?(笑) あまりの急展開に頭がついていきません。この人は、親切心からゴミを拾ってくれたのでしょうか。荒んだこの世界に腹を立てて? それにしてはちょっと異常に見えてしまったのはなぜでしょう。普通の人には出来ない偉業です。
 しかも、ものすごい早業だったわけです。猛スピード。彼女がゴミを掴んでカバンに入れたはずなのに、イメージとしては、カバンから突然手が伸びてきて、ゴミを掴んでまたカバンの中に引っ込んでしまった感じ。恐ろしい悪魔の手さげ袋です。
 向かいで何気なく見ていた私がこれだけ衝撃を受けたのですから、彼女とゴミの間に座っていた青年はどれだけ驚いたことでしょう。隣の女性が立ち上がったと思ったら、手が自分を通り越してゴミを掴み、カバンとの間を往復するわけですから (笑)。心臓の弱いお年寄りだったら、絶対に命まで掴まれて持って行かれてますよ