腹ぺこケルベロス

馬鹿犬

事件です!

 昨夜、仕事から帰宅して玄関のドアを開けると、ちょうど犬が廊下を横切る瞬間でした。おや、ただいま。
 ん?犬の表情が凍り付いているように見えるのはなぜでしょう。いつもなら、ワォーンと雄叫びをあげ、尻尾を激しくふって駆け寄って来るくせに、今日は私の顔を見て立ち止まったまま。「やばい!まずいところを見られた!」という声が聞こえてきそうな顔付きです。
 あれ? 何か口にくわえてますね。小さな何か。あっ、またゴミでも漁って食べものを物色してたんでしょう! エサは充分あげているはずなのに、困ったバカ犬ですこと。
 …ポトッ
 おや? 犬の口元から何かが落ちましたよ。えっと、これは…。あ、小さな電池ですね。ボタン式の。どうしてこんなものが?
 って、ちょっと待てよ。いやな予感が頭をよぎりました。おいっ、そのくわえてるもの、見せてみろ!
 うわぁ、やっぱり…。祖父の補聴器!(笑)


 なんてことしてくれたんですか! 15万円もする補聴器を破壊するなんて。バラバラに壊れてるじゃないですか(笑)。全然笑い話になりません。
 そこへ、出かけていた祖父が帰宅。ことの顛末を告げると、信じられないといった顔でうなだれておりました。そりゃそうだ。私だってこんなこと信じられません。
 だって、耳の遠い祖父が補聴器を買ったのがおよそ9ヵ月前。昨日今日の話じゃないんですよ。今まではこんなことなかったのに、今になってなぜ…。
 それに、うちの犬はもうかなりの老犬。何でも噛みたがる幼犬なら話はわかりますし、こちらも注意するわけですが…。まさかこんな事態が起こるなんて。
 じゃれて噛むってこともないと思うので、きっと祖父が何かを食べたその手で補聴器を外したため、補聴器に食べ物の匂いが移っていたんでしょう。そうとしか考えられません。ああ、それにしてもショッキングな事件です。
 家族からさんざん叱られた犬は、小さくなってブルブルと震えておりました。自分が悪いんですからね。大変なことをしてくれたんですから。もっと反省なさい。


 そして今日、購入店に事情を説明したところ、1年間の保障期間中だったため、今回は無料で交換してくれるとのこと。こういったパターンも、一応、事故という扱いになるそうです。わ、本当ですか。よかった、よかった。いくら保障期間中とはいえ、半額くらいは当然負担しなきゃいけないんだろうなぁと思っていたため、全額保障とは驚きです。
 ちなみに、次回、同じ事故が起こったら、全額こちらが負担だそうです。そりゃそうだ(笑)。


 というわけで、バカ犬が巻き起こした最悪の事件は、「補聴器がタダで新品になる」という最高の終結を無事に迎えることができました。めでたしめでたし。