カイロの部屋

カイロ

達筆

 先日、とある本が発売になりました。カイロ業界の専門書なのですが、そこに我らが(ってこともないですけど)シモちゃんの書いた文章も掲載されておりまして。
 執筆の依頼を受けた頃から私も話を聞いていたのですが、文章を書きなれていない彼があまりに「嫌だ嫌だ」というので、もう少しで私が替わりに書いてあげるところでした(笑)。最終的には、自分で書く道を選んだので私の仕事は減りましたけども。
 で、出版されてから読ませてもらったのですが、やはり書きなれていない分、ちょっととんちんかんな部分もあり、いったい何がいいたいのかよくわからないパートも数知れず。
 というわけで、中途半端な笑いの箇所をすべて排除して、きっちりとした文章を私が書きなおしてあげることにしました。といっても、もう本にはなってしまってるわけで、掲載とかではなく私が勝手に書いてあげるだけ(笑)。
 基本的にシモちゃんのこれまでの歩みが綴られているので、情報が元の文章しかなく、自分のことじゃないのでよくわからない部分もあって書くのはしんどかったですが、適度にまとまりました。真面目バージョンの完成です。


 で、それはとりあえず書いただけで、本当に書きたかったのはもっと笑いの含まれたパターン。文章の内容はそのままに、真面目とはかけ離れた笑いの方向へ突っ走るバージョンの作成を開始した神田川さん。
 スタイルは会話形式。シモちゃんが架空のトーク番組に出演したって想定で完成いたしました。彼が書いた文章を元に、どうでもいい笑いや、彼にまつわるエピソードなどをふんだんに盛り込み、かなりの長編に仕上がってしまいました。真面目バージョンよりも遥かに簡単に書けてしまいましたけど。


 書き上げた後、真面目バージョンとトークショーバージョンの2パターンを彼にプレゼントしたところ、前者には深く感心し、後者には腹を抱えて笑っていました。ちょっとやりすぎたかなと思う箇所も多々あったので、腹を立てられたらどうしようかと内心少しは思っていたのですが、要らぬ心配だったようです。私の勝ち。
 というわけで、シモちゃん本人の許可も得たので、実名もろもろは伏せて、そのトークショーバージョンをここにも掲載しようと思います。どこかで発表しないともったいないくらい面白く書けたので。
 ま、元の真面目な文章があっての面白さですし、すべての笑いのツボを理解できるのは、その人生を歩んだ彼と、書いた私だけなのかも知れませんが、そのへんを差し引いてもまあまあ面白いだろうってことで。
 長いので、数日に渡って掲載予定です。しばらくお楽しみくださいね。基本的に、書かれていることはほぼ真実ですので。

「みなさん、こんにちは。今日は、△△学院卒・××代表の○○先生をお迎えしまして、『私の整体・カイロ独立開業成功作戦』をテーマにいろいろとお話を伺っていこうと思います。○○先生、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「まずは、この世界に足を踏み入れたきっかけを教えていただけますか?」
「きっかけはですね、友人の一言だったんです」
「詳しくお聞かせください」
「当時、僕は地元の建材メーカーに勤めていたんですが…、あ、会社名まで言ったほうがいいですか?」
「そこまで詳しくは結構です」
「すみません。で、特に不満があったわけではないのですが、なにか物足りなくて、やりがいを見出せないままの日々を送っていたんです」
「そうですか」
「どこか満たされない毎日を繰り返していたんですよね」
「なんの歌詞からの引用か知りませんけど、早く進めてください」
「すみません。で、もちろん若手だった僕に大きな仕事を任せてもらえるはずもないので、もっと自分が必要とされる仕事がしたいなぁと葛藤していたんです」
「それは若手だったからということではなく、○○先生があてにならなかったということだったのではないですか?」
「まあ、そうかもしれませんね。ってか、僕、ゲストですよね?」
「ええ」
「どうしてそんな意地悪なこと聞くんですか?」
「そういう番組ですから」
「わかりました。で、何かをやりたいんだけど、それが何だか自分でもよくわからないって日々が…」
「それ、まだ続くんですか? ちっとも例の友人が出てくる気配がないんですけど」
「すみません。もうすぐ出てきますんで」
「もうすぐ出てくるなら、もうすぐ出てきそうだな〜って雰囲気ぐらい醸し出して話してくださいよ」
「すみません、気が利かなくて…。で、えっと、どこまで話しましたっけ?」
「どこもなにも、まだ何も始まってませんよ」
「すみません。あっ、で、そんなある日、その友人が専門学校誌を見ながら、おもむろに『この“整体・カイロプラクティック”っていいんじゃない?』と言い出したんです」
「それは、なぜまた」
「僕も聞いてみたんですけどね、『人と接する仕事ってお前に合ってそうじゃん』って言うんです」
「人と接する仕事なんて山ほどあると思いますけどね。そんな理由で勧めるご友人に拍手です」
「どうも」
「で、そんな一言でその気になってしまわれたんですか?」
「ま、一応」
「・・・・・・・・」
「…何かないんですか?」
「特には。それよりも私が気になっているのは…」
「はい」
「先ほど、ご友人がおもむろに言い出したとおっしゃいましたけれども」
「ええ」
「“おもむろに”というのは、『落ち着いて、ゆっくりと』という意味ですが、そういうことでよろしいんですか?」
「えっ? そうなんですか?」
「意味もわからず、雰囲気だけで適当に付け加えてみただけですか?」
「…はい、すみません。『なにげなく』みたいな意味で勝手に」
「困ったものですね。次に進んでください」
「はい。で、当時、僕はカイロのことなんて全く知らなくてですね、あ、カイロって、エジプトのカイロじゃありませんよ」
「承知しています。エジプトの首都は本日のテーマに全く関係ありませんので」
「あれ? カイロって首都でしたっけ?」
「首都です」
「そうでしたっけ」
「そうですけど、どうでもいいですから、早く話を戻してください」
「すみません、脱線してしまって。ええと、で、当時は地元の建材メーカーに勤めていて…」
「どこまで戻すんですか。もうご友人出てきてますよ」
「あ、そうでした。で、その友人がハジメくんって言うんですけど」
「ええ」
「漢字で『一』って書いてハジメなんですよ」
「大抵はそうでしょうね」
「でも、ハジメくん、長男じゃなくて三男なんですよ。凄くないですか?(笑)」
「凄いですね!と驚いて欲しいわけですか?」
「いや、そんな無理にリアクションしていただくほどでもないんですけど…」
「では、先に進みましょう。そのご友人に勧められたわけですね?」
「ええ、勧められてその気になったんで、早速、学校の資料を取り寄せたんです…おもむろに」
「ですから、『おもむろに』を無理に挟み込むのはやめてください」
「すみません。で、その資料にカイロの簡単な説明が書いてあって、あ、カイロって、使い捨てカイロのことじゃありませんよ」
「だから、わかってますよ。学校の資料取り寄せて、中に『鉄粉などを混合してその化学反応による発熱を利用する』なんて説明が書いてあったら、まず取り寄せから間違ってますから」
「ですよね。どこに問い合わせたって話ですもんね(笑)」
「ぜんぜん笑うところじゃありませんから。笑ってる暇があったら、さっさと話を進めてください」
「はい。で、カイロの説明がですね、背骨を矯正することによって人間が本来持っている自然治癒力が回復します…って感じで書いてありまして、これだ!と思ったわけです」
「と、言いますと?」
「その頃、これからの日本はどんどん高齢化が進み、超高齢化社会になっていくと盛んに言われていまして、現に今そうなってきているわけですけど」
「そうですね」
「ですから、これしかない!と」
「お年寄りたちの背骨をどうにかしたいと思われたわけですか?」
「まあ、そういうことですね」
「あんなに曲がった背骨を?」
「すみません、適当に理由付けただけです…」
「やはりそうでしたか。他には何かないのですか?」
「あ、アメリカでは法制化されているけど、日本ではまだ全然で、これから普及していくでしょう、とも書いてあったので、それを読んで、これしかない!と」
「思われた」
「…すみません。これも適当で…」
「そうですか。それでは、ここで一旦CMです」


 …つづく