防虫ババア

ムシューダ

地下鉄にて

 帰りの地下鉄で、向かいに座っていたおばさんが奇妙でした。
 髪は細めのパンチパーマ風で、優先席にどっかりと座り、自分の隣のスペースに荷物を置いて占領して爆睡するという見た目からして、ちょっとおかしな人なんだろうなぁってのは手に取るようにわかるわけですけど。
 その外見に加え、際立って奇妙だったのはその手に握りしめているもの…。
 どういう意味合いなのかはさっぱりわかりませんが、右手には、いわゆる“ムシューダ”や“タンスにゴン”のような吊り下げタイプのタンス用の防虫剤のようなものを、左手には、トイレとかによくある消臭剤芳香剤のボトル部分を握っていました。
 どちらもパッケージは付いておらず、明らかに新品じゃなさそう。芳香剤も、液体の入ったボトルだけだったので、詰め替え用でしょうか。さっぱり理解不能です。
 で、電車の揺れに乗じて、時折目を覚ますんですが、カバンをもぞもぞとあさったりはするものの、その二つはしっかりと持ったまま。カバンに入れようと思えば抵抗なく入れられるはずなのに。奇妙で仕方ない。


 私が降りる間際、爆睡中のおばさんは、ガクンとなった拍子にひざの上に置いていたカバンをドタンと落としました。そして、握っていた芳香剤が車内にダイブ。芳香剤はコロコロと車内を転がり、向かいの私の足元まで到着。そして、さらに外れたキャップ部分でしょうか、私の足にコツンと当たりました。
 当然、向かいのおばさんが何を握っていたのかも把握してますし、転がったのもわかってますけど、足にキャップが当たった際には、「あれ? 何か足に当たった。何だろ?」みたいな軽い芝居を打っておきました(笑)。
 寝ぼけながらも、おばさんはぬっくと起き上がり、手を伸ばして落としたものを拾いにかかってましたが、なんだか食われそうで(笑)、私は急いで電車を降りました。


 ホント、あの防虫剤と芳香剤は何だったんでしょうね。「悪い虫よ、私に寄ってくれるな」みたいな意味なのでしょうか(笑)。ま、誰も寄り付いてなかったですから、ある意味成功ともいえますけど。